研究概要 |
本年度は、協同研究プロクラムにおいて、教師のどのような技量や態度を育むべきか、という点を明確にする事を目的に、主に以下の2点に取り組んだ。第1に、従来の研究知見をレビューし、研究を展開していく上での理論的枠組みを構築した。研究の結果、児童の発言に対して教師が行う言い換えや、追加の発問、沈黙などの働きかけが、授業における話し合いの規範(グラウンド・ルール)を学級に共有するための、潜在的な働きかけとしても機能している可能性が提案された(松尾・丸野,2009)。このレビューの成果は、児童が学び合う授業を成立させる過程における、教師の働きかけを分析、解釈するための、新たな視点を提供するものであり、本研究における授業分析の基盤となる重要な理論的枠組みが構築された。第2に、国語の授業過程を分析し、熟練教師が行う板書と机間指導という二つの行為について、授業における対話の生成という観点から、その特徴を検討した。分析の結果、授業の冒頭で児童が自考えをまとある作業中になされる机間指導での対話が、その後の全体交流場面において、教師が児童発言の背後にある考え方を理解したり、複数の意見を関連付けたりする際の枠組みとなる事が示唆された。また、その授業や教科において、児童にどのような能力を獲得させたいか、という目標を教師が明確にしていることが、机間指導における児童との対話を方向付け、その後の効果的な発言の整理につながっていることも示唆された。さらに、児童の発言のポイントやつながりを教師が板書上に図式化することが、その後の議論の場面において、児童が互いの発言を相互に関連付けてきく事を促していることも示唆された(松尾・丸野,2010)。この研究成果は、従来の研究が残してきた、教師が児童の発言をきく能力をいかに育てるか、という課題について、一つの有効な研究の方向性を示すものである。
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