平成22年度は当初、論作文産出に係る書き手のメタ認知(メタ認知的知識)の構造化、および文章産出スキルの違いによるメタ認知的知識の重視度合いの違いについて検討を加えることを目的として研究を進める予定であった。しかしながら、計画立案及び研究活動遂行の中で、メタ認知的知識を検討する上では、まずは書き手である大学生(主に初年次生)を対象にして、自身が論作文産出活動の各方略(以下、活動方略)をどの程度重要視しているのか、重視度合いは文章産出スキルの高さによって異なるのかどうかを捉える必要が生じた。そのため、年度前半はまず、活動方略の重視度合いおよび文章産出スキルの高さによる活動方略重視度合いの違いを検討することとした。まず、大学初年次生を対象に、活動方略重視度合いを尋ねる質問紙調査を行った。その上で、400~600字程度の論作文課題を実施した。産出文章についてはJESSを用いて採点を行い、調査における回答との関連を検討したところ、産出文章の「論理構成」得点(5点満点)が高いほど活動方略重視度合いが低くなる項目が見られた。そこで、因子分析によりそれらの項目の構造を検討したところ、「内容・構成」「修辞」の2側面が得られた。これらの結果を踏まえ、重回帰分析により各側面が論理構成得点に及ぼす影響を検討したが、結果としては「修辞」側面の標準偏回帰係数のみが有意であり(β=-.29 p<.01)、修辞側面の重視度合いが低いほど論理構成得点が高くなった。これらの成果は、大学初年次における論作文産出スキル育成の際、指導者が書き手に各活動方略の重視度合いを示す、あるいは書き手自身が各活動方略重視度合いの振り返りを行うといった形で、実際の教育場面への適用が可能である。したがって、教育活動を効果的に進める上でも極めて有益であると言えよう。
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