高齢者の高次脳機能を維持するための効果的な方法としては、読書や文通や日記をつけることなどを先行研究に見出すことができる。本研究は、高齢者の認知的活動の程度および情報通信機器の使用の程度が高次脳機能の維持に及ぼす影響を検討することを目的として実施された。 住民検診に参加した健常高齢者274名を対象者とした。対象者の同意のもとに、認知症のスクリーング検査としてMMSEを、前頭葉機能を測定する検査としてStroop課題、D-CAT(数字抹消検査)、言語流暢性検査を、前頭葉・側頭葉機能を測定する検査としてウェクスラー記憶検査(WMS-R)の論理的記憶課題を、頭頂葉機能を測定する検査としてMoneyの道路図検査を個別で実施した。また、日常生活における認知的な活動状況および情報通信機器の使用状況については、住民検診実施前にあらかじめ配布されていた質問票の中で、参加者の日常生活状況を尋ねる質問として測定された。 認知的活動状況および情報通信機器の使用状況が高齢者の高次脳機能検査の結果と関連しているかを年齢、性別、教育歴で補正した重回帰分析により検討した。認知的活動状況が高まるとStroop課題と論理的記憶課題の遂行成績を向上させることが明らかとなった。また、情報通信機器の使用状況が高まるとD-CATとMoney道路図検査の遂行成績が向上することが明らかとなった。本研究の結果からは、認知的な活動に従事しているとエピソード記憶および実行機能の低下を減衰させ、情報通信機器を使用していると視空間機能および注意機能の低下を減衰させることが示唆される。この結果は、高齢者のライフスタイルのあり方が認知機能の維持に影響を与えることを示した従来の見解に一致するものである。今後の研究では、活動的なライフスタイルと認知機能の低下防止とに関わる因果関係を解明することで、豊かな高齢期を送るための方策を検討したい。
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