本年度は、昨年度から行っている、言語・コミュニケーション能力と実行機能の発達的な関係を調べる調査を継続した。5歳児を対象に言語コミュニケーションに関する標準化テスト、短期記憶課題、抑制機能を測定する課題を実施し、課題成績間の相関関係から5歳児の言語コミュニケーション能力に短期記憶や抑制機能などの実行機能の発達が寄与しているかどうかを検討した。その結果、短期記憶課題成績は言語コミュニケーション能力に全般的な影響を及ぼすことが明らかになった。一方、抑制機能の発達は言語コミュニケーション能力の中でも文字通りの理解以上の推論を行う場面やルールの理解などに影響することが示唆された。このような結果の違いは、二つの実行機能が言語発達へ貢献する役割が異なると考えられた。 また、昨年度解析した眼球運動測定課題の結果を見直したところ、成人と幼児とでは、視覚刺激から生じた注意の大きさや、視覚的注意が言語理解に与える影響が異なる可能性が見出された。これを詳細に検討するため、参加者の視点に応じて視覚刺激が変化するような状況のもとで、色の形容詞を含む文を聞いているときの視覚文脈の変化を捉える眼球運動計測実験を行った。現在、成人のデータ収集が終了し、解析を進めているところである。成人の全体的なパターンは視覚刺激の変化の影響を示唆するものであり、幼児を対象とした同様の実験を行う必要性を認めたところである。幼児と成人の結果を比較することにより、視覚文脈から生じる注意によって、言葉の理解の仕方が変わるという知見につながると予想している。
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