自閉症児のナラティブ能力と自伝的記憶の想起との関連について明らかにしていくために今年度は次のことを行った。第1に、児童・生徒(約1000名)の自伝的記憶の機能を調査した。その結果、子どもの自伝的記憶には「自己認知」「問題解決」「社会的つながり」「感情調整」の4つの機能があることがわかった。また、これらの機能は、記憶想起の頻度や時間的展望と関連があり、将来の自分に対してプラスに評価している子どもほど機能が高いことが示された。 第2に、小学1年生の高機能自閉症スペクトラム児の自伝的知識(自伝的事実や自伝的記憶を含む自己に関わる知識)の表出について事例検討を行った。その結果、事例は自発的には自伝的知識をほとんど表出しなかったものの、9月より導入した「学校の活動の振り返り」課題において、自分が受けた授業の名前や内容を答えることができるようになった。ただし、その内容は出来事のエピソード(自伝的記憶)というよりも、過去の事実を述べる自伝的事実のレベルであった。また、出来事に付随する感情や評価を表出することは難しかった。この事例により、高機能自閉症スペクトラム児の自伝的知識の表出は、少なくとも次のような4つの段階を経て発達していくことが示唆された:(1)関係性構築、(2)自伝的事実(出来事)、(3)自伝的事実(出来事に付随の感情)、(4)自伝的記憶。 第3に、高機能自閉症スペクトラムの児童・生徒(6名)の自伝的記憶の想起に影響を及ぼす要因を実験により検討した。この実験ではナラティブ能力もあわせて評価した。
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