研究概要 |
本研究は,自閉症スペクトラム(ASD)児の自伝的記憶の想起(自伝想起)に影響を及ぼす要因を探ることを目指して,ナラティブ能力を含む幾つかの指標と自伝想起との関連性を,高機能ASD児(N=23)と定型発達児(N=26)を対象に検討した。参加児は(a)自伝想起課題(「最近楽しかったこと」を含む幾つかの質問),(b)Gillam & Pearson(2004)のナラティブ言語課題を行った。また,(c)得意な学習と苦手な学習に関する自伝を想起し,各学習の動機づけをDeci,& Ryan(1985)の自己決定理論に基づいて評定した。加えて(d)保護者は,実行機能等の子どもの発達についての質問(BRIEF,Gioia,et al.,2000)に回答した。結果,ASD群と定型発達群ともにナラティブ能力と自伝想起との間に中程度の有意な相関が認められた。しかし,定型発達群の自伝想起は,1枚絵のストーリナラティブと有意な相関を示したのに対し,ASD群の自伝は,1枚絵ではなく5枚絵のストーリナラティブと有意な相関を示した。また,自伝想起は両群ともに,自律的な動機づけの高い得意な学習よりも動機づけの低い苦手な学習でより困難になったが,ASD群は定型発達群よりも,苦手な学習で想起した自伝の鮮明度が有意に低下することがわかった。一方,両群の自伝想起はいずれも,高次認知機能の実行機能とは有意な関連性を示さなかった。これらの結果は,ASD児の自伝想起の発達には,特定のナラティブ能力や自律的な動機づけが重要であることを示唆している。なお,本研究では,自伝想起が日常生活上どのような意味をもっているかをイメージするために,副次的に,小中学校の児童生徒の自伝想起や語りの機能についても質問紙調査により調べた。大人と同様に,子どもの自伝的記憶にも自己-方向付け,社会,感情調整といった適応的な機能がすでに備わっていることとが示唆された。
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