本研究は、「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の長期縦断調査データを用いて、サクセスフル・エイジングの心理的側面である「主観的幸福感」を高く保つための要件を検討するものである。 1.データ収集:NILS-LSAでは40~90歳代の地域住民(性・年代ごとに層化無作為抽出)を対象に約2年ごとに縦断的に調査を実施している。今年度もその第6次・第7次調査として自記式調査票および面接調査により、主観的幸福感、社会経済的地位、家族の有無、生活活動能力、対人関係、社会参加状況、認知機能、ライフイベントなどのデータの収集を行った。 2.成果:NILS-LSAの第6次調査までの縦断的データを用い、以下の研究を行った。まず成人中・後期を対象に、約2年間で体験したライフイベントおよび日常苛立ち事が主観的幸福感に与える影響について、性・年代別に検討した。その結果、(主観的幸福感の肯定的側面と否定的側面で必ずしも同じ結果が示されるとは限らないものの)概してこれらの体験から受ける影響は性・年代により異なり、若い年齢層で主観的幸福感を低下させる体験であっても、高齢層においては必ずしも主観的幸福感の低下につながらない可能性が示唆された。 また、成人後期を対象に、約6年間のインターバルで行った調査データを用いて、認知機能の維持/低下と主観的幸福感の関連について検討した。その結果、認知機能が低下した場合に、否定的側面においての主観的幸福感の低下が生じる可能性が示唆された。すなわち、主観的幸福感を高く保つためには、認知機能を維持することが重要であると推測された。 これらの知見は、高齢期における主観的幸福感に直接的に影響を与える要因を示すとともに、今後の研究において、多要因を総合的に解析に組み込んでいくことの重要性を示すと考える。
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