研究概要 |
本研究は遂行機能(EF)質問紙・EF課題をツールとして,種々の心理機能障害を解明しようとする試みである。EFは前頭葉,特に前頭前野背外側部が中心的に関わる機能とされる。EFは心的機能としての認知行動過程の全般的制御,感情過程の制御に関連していると考えられ,心理機能障害とも強く関連することが示唆される。またこの機能には個人差が存在することから,大学生におけるEFの個人差は直接的に,または日常生活における認知行動制御・感情制御に影響を及ぼすことで間接的に,心理機能障害に影響を及ぼすことが示唆される。本研究の目的はEFの課題成績・EF傾向の個人差と心理機能障害傾向との関連を検討することである。本年度は,EFと抑うつ傾向ならびに解離傾向との関連について,質問紙を用いた調査を行った。EF障害の質問表DEXは,[行動制御不足][情意制御不足]の2因子構造をとること,CES-D尺度によって測定された抑うつとの相関は,[行動制御不足]因子がr=.27,[情意制御不足]因子がr=.52となり,遂行機能障害傾向(とりわけ情動・意欲の制御不足)と抑うつ傾向の間に有意な関係が認められることが明らかとなった。また,DESによって測定される解離傾向との関係は,[行動制御不足]因子がr=.60,[情意制御不足]因子がr=.45となり,遂行機能障害傾向(特に行動の制御不足)と解離傾向の間に有意な関係が認められることも明らかとなった。これらの結果は,心理機能障害に遂行機能およびその個人差が健常大学生においても認められる程度に関与することを明らかにしており,脳科学的観点からみた心理機能障害の解明の一端を担う,基礎科学的にも臨床実践的にも意義のある研究である。
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