研究概要 |
自我漏洩感とは,「感情や思考などの内面的情報が意図しないのに他者に伝わってしまう」と感じる心理的症状である.診断学的に重要な症状とされる半面,思弁的な精神病理学研究や文化的側面からの検討が多く,実証的な研究がなされてこなかった.自我漏洩感に関する筆者らの実証的研究によって,自我漏洩感の発生状況・苦痛が発生するメカニズム・苦痛が持続するメカニズムが明らかになっている.今後は,自我漏洩感を持つ人を認知行動療法に導入する際に工夫すべきことについて実証的な知見を得たい.本研究課題は,自我漏洩感の心理教育プログラムを開発することを目的とする. 自我漏洩感の心理教育プログラムを作成する際に,自我漏洩感の中心的な特徴に焦点を当てることが欠かせない.平成21年度は,自我漏洩感の中心的な特徴の一つである,加害感(人に不快感を与えていると感じる)について,その測定法の探索を行っている.Rector, Kocovski, and Ryder(2006)が開発したSocial Anxiety-Discomfort to Others Scale(SA-DOS)の日本語訳を作成し,原著者がバックトランスレーションを確認し日本語訳が確定した.α係数と再検査信頼性の係数から,信頼性の高さが確認された.また,他の社会不安関連の尺度と有意な正の相関が見られたため,妥当性が確認された.加害感の測定に特化した測定尺度はこれまで存在していなかったため,本研究は意義深いと考えられる.本研究は,Canadian Psychological Association(CPA)と日本パーソナリティ心理学会で発表を行い,現在学術雑誌に投稿予定である.
|