本研究の目的は、身体化するクライエントに対する心理的援助のうち、イメージを用いた心理の有効性について探索的に検討を行うことである。本年度は、昨年度に引き続き、乳がん者に対する心理臨床学的援助についての国内外の文献研究を行い、表現療法の意味に焦点を当て、自己の強化、自己イメージの側面を適応させる方法として安定性と心理社会的機能を向上させる意味を持つと論じているWoodら(2010)などの先行研究を概説し、「乳がんの心理臨床学的援助としての表現療法」という論文にまとめた。また本調査Iとして、乳がん術後の放射線治療中の女性を対象とし、半構造化面接とアレキシサイミア傾向を測定するためのTAS-20、バウムを行った。半構造化面接では、乳がんという病いの体験とそれに伴う変化のプロセス、心理的支えなどの観点を中心とするインタビューガイドを用いた。また箱庭療法の経時的調査への協力同意が得られた場合は、本調査IIとして、受診のペースに合わせ、箱庭セッションを複数回行った。本調査I、IIは平成23年度も継続し、詳細な分析と検討は今後行う予定であるが、多くの人は再発の不安を抱えながらも、乳がんという病いの体験を前向きに捉えようとしており、家族などの支えや自分の生きがいとなるような仕事や活動を継続することで、病によって生じた揺らぎから安定を取り戻そうとしていること、一方で言語面接で気丈に語る人でも、バウムを見ると境界の不安定さなどのしんどさを抱えている場合があり、乳がん者の心理臨床学的援助においても投映法を用いたアセスメントの重要性が示唆された。また乳がん者は箱庭への親和性が高い人と低い人が明確に分かれる印象があり、両者の特徴についてアセスメントとの関連で検討し、より適切な心理的支援の方向を模索することが今後の課題として挙げられる。
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