研究概要 |
代表的な消化器心身症の1つに過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome,IBS)がある。IBSは若年層に多く見られ,特に大学生年代は好発期であり日常生活や学業に支障を来たす者も多い。その発症や経過にはストレスが深く関与しているため,柔軟なストレス対処が症状予防・軽減の鍵となると予想される。本研究では大学生を対象に,IBSとストレス対処の柔軟性の関連について心理生理学的に検討する。 本年度は,ストレス対処の柔軟性の中でも特に認知的柔軟性(状況変化に応じた思考の転換)に焦点を当て,IBS有症状者と無症状者における認知的柔軟性の違い,および実験的ストレス負荷時に示す心理生理学的ストレス反応の違いについて比較検討を行った。IBS有症状者と無症状者のスクリーニングにはRome II Modular Questionnaireを用い,認知的柔軟性を捉えるテストにはWisconsin Card Sorting Testを用いた。また,実験的ストレス課題にはアナグラムを使用し,安静時・ストレス負荷時・休憩後の3ポイントにおける心理的ストレス反応(新版STAI)と生理的ストレス反応(唾液中αアミラーゼ,コルチゾール,クロモグラニンA)の変化に注目した。 大学生34名のデータについて分析したところ,IBS有症状者は無症状者と比べて,認知的柔軟性が低い傾向にあること,および,ストレス負荷に伴う心理生理学的ストレス反応が強まりやすく,休憩後もストレス反応が持続しやすい傾向にあることが示された。また,認知的柔軟性とストレス反応の強度・持続の間にも関連が認められた。これらのことから,IBSの予防や症状軽減のための心理援助技法として,認知的柔軟性の伸長をはかるような認知行動的アプローチが有効である可能性が示唆された。
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