研究概要 |
うつ病は国民のこころの健康を脅かす公衆衛生上の大きな問題である.うつ病では十分な薬物治療後も特に不眠が残存し,そのために社会機能が低下する患者も多い.また残存する不眠はうつ再発の大きな危険因子である. 医療施策設立のためには強いエビデンスが必要であり,特に治療介入では厳密な無作為割り付け対照試験(RCT)を要する. 本研究では名古屋市立大学・高知大学の二施設共同臨床試験として,倫理に配慮しながら通常治療後も不眠が残存した部分寛解うつ患者37症例を対象に無作為割り付け対照試験(DEBUT study)を行った. 通常治療に短期睡眠行動療法を加えた群では,通常治療のみの群と比較して主要評価時期(8週時)には主要評価項目である不眠重症度評価表において有意に改善を認めた(P<.0005). 二次評価項目では,うつ病重症度総合評価(P=.013),不眠項目を除いたうつ病重症度(P=.008)でも有意に優れていた.寛解率も8週時に比較して,不眠(50%【10/20】vs0%【0/17】.治療効果発現最小必要症例数(NNT)2),うつ(50%[10/20]vs6%【1/17】.NNT2)とも有意に優れていた. さらに医療施策に直接反映させるためにQoL (quality of life)の尺度としてSF-36 (Short Form 36.QoLを8つの下位尺度側面で評価)をベースライン・主要評価時期(8週時)に測定した.通常治療に短期睡眠行動療法を加えた群では全ての下位尺度で改善がみられたが,通常治療のみの群では4下位尺度で改善がみられたにとどまった。また共分散分析にてベースライン補正して両群を比較すると,通常治療に短期睡眠行動療法を加えた群では,身体機能(P=.006),社会生活機能(Pr=.002),心の健康(P=.041)の3下位尺度で有意に優れていた.現在はこれらのデータをもとに最終的な医療経済分析を実施中である.
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