研究概要 |
本研究は,・前頭葉損傷者の遂行機能障害の改善をねらいとした認知リハビリテーション(CR)を実施し,その訓練効果を行動データと近赤外分光法(NIRS)による脳血流データの両側面から検討することを目的としたものである.平成22年度は,前年度に引き続き,遂行機能のうち発動性機能を取り上げ,視覚探索課題を用いた発動性障害のCRを実施した.特に,平成22年度は患者の行動範囲を広げるために,タッチパネル上に呈示された標的刺激に直接触れることによって反応することを求める視覚探索課題を訓練課題として使用した(研究1b).発動性障害が顕著な慢性期の前頭葉損傷者を対象に,約4ヶ月間のCRをおこなったところ,訓練経過に伴って,標的刺激に対する患者の見逃し率や反応時間が低下し,患者の自発的な探索行動や外的刺激に対する反応性が訓練によってある程度改善することがわかった.NIRSデータでは,訓練後に課題遂行中の患者の前頭前野の血行動態が訓練前と比べて減衰する傾向が示された.訓練経過に伴うこのような脳血流の減衰は,学習による神経ネットワークの伝達の効率化が生じた結果と捉えることができるが,研究1aでは,同様の課題で訓練後に患者の前頭葉の賦活量が増加するという逆の結果を得ているため,どのような場合に,CRの結果として脳の標的部位に血流上昇または減少が観察されるのか,今後,注意深く検討する必要がある.いずれにせよ,本研究の結果は,CRによる介入が患者の行動面の改善のみでなく,脳内病変部位に可塑的な変化をもたらす可能性を示唆する点に意義があると思われる. なお,平成22年度後半からは,遂行機能のうち抑制機能を対象に,ストループ様課題を用いたCRを実施している(研究2a).現在はデータ収集の段階であるが,現時点で,抑制機能障害の改善にもCRが有効であることを示唆する結果が行動・MRSデータの両方から得られている.
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