研究概要 |
本年度は,治療効果をもたらすための対人コミュニケーションのあり方を開発するために,介護スタッフが認知症高齢者にどのように非言語行動を用いているか,介護スタッフの個人特性によって認知症高齢者への接し方に相違が認められるのかを検討するために生活場面での観察を実施した。 研究対象者は,同意の得られた施設Aの認知症高齢者2名と介護スタッフ8名(男性1名,女性7名),施設Bの認知症高齢者1名と介護スタッフ5名(男性2名,女性3名)であった。観察内容は,行動目録法を用いて,介護スタッフによる対象高齢者への関わりとそれに対する対象高齢者の反応を発話内容や発話回数などの言語行動および視線や体の向きなどの非言語行動から観察した。介護スタッフの個人特性については,自身の年齢,性別,経験年数,取得資格などの基本的属性,性格特性(Big Five形容詞短縮版2006;清水他,2008),セルフモニタリング改訂版(岩淵他,2003)などから構成された質問紙を実施した。施設Aは主任,施設Bは介護スタッフリーダーを代表者として質問紙と返信用封筒を預け,介護スタッフに配布するよう依頼した。各介護スタッフには回答した質問紙を返信用封筒に入れ,代表者に預けるよう求めた。 この結果,各介護スタッフの平均非言語行動率(介護スタッフが対象高齢者に声をかける際に視線または体を向けた確率)は全員が50.0%以上であった。この非言語行動は男性よりも女性スタッフに多く認められ(t(8)=3.21,p<.05),資格の有無や経験年数に違いはなかった。また,平均非言語行動率別(高群・低群)に介護スタッフの性格特性などを検討した結果,高群の方が自己呈示変容能力がやや高かった(t(8)=1.98,p<.10)。以上のことより,介護スタッフが認知症高齢者の呼びかけに対応する時や声をかける時に用いている非言語行動は男性スタッフよりも女性スタッフの方が多く用いているが,それは知識や経験により習得されるものではないことが示唆された。
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