1.ワークと実験:主観的ウェルビーイング(SWB)を向上させるきっかけとして,1日の挨拶した回数と人数,集団内での発言回数,良かったこと等の記録をつけるワークを参加者に紹介した。ワークへの取り組みは独自のペースにて無理なく行うように指示した。参加者はワーク実施6週程度の前後とその1か月程後の計3回,実験室場面でのメンタルストレステスト(課題)負荷実験に参加した。課題負荷前の安静時から課題終了の後まで,継時的に参加者の自覚的な気分状態と血圧・脈拍を測定した。 2.結果と考察: (1)SWBの変化 SWB下位要因のうち気分転換を上手に行えるようになった者(気分転換向上群)が13名(不変または低下は9名)存在した。他の下位要因は向上した者が少なかったため,今回の研究では気分転換向上の有無を独立変数として以降の検討を行った。 (2)心理生物学的ストレス反応 ワーク実施期間の後,気分転換向上群は,課題直後でも緊張・不安と怒り・敵意の2つのネガティブな気分状態が悪化しなくなった。これに対して血圧と脈拍の結果は,気分転換向上群がワークに取り組む前はストレス負荷による生物学的反応からの回復に時間がかかり,いったん回復しても再反応しやすかったことを示した。こういった者が気分転換を上手にできるようになったことにより,生物学的ストレス反応からの回復が早くなったとも考えられる。 3.成果の意義:気分転換を上手に行えるようになることで,ストレス事態に遭遇してもネガティブな気分を抱きにくくなり,生物学的ストレス反応を生じても回復が早まることを実証的に示した。SWBの他の側面については向上した者が少なく,検討できなかったことは本研究の限界である。ただし,気分転換も含めたSWB全般が向上することにより,さらに心理生物学的ストレス反応を生じにくくなったり回復しやすくなったりする可能性を示唆した。
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