研究概要 |
本研究の目的は,視聴覚の時空間知覚表象の統合過程を明らかにすることである。22年度は,21年度の研究で発見した,短い時間間隔で呈示された音の間の距離が,長い時間間隔で呈示された音の間の距離よりも短く感じられる知覚現象(聴覚におけるTau効果)が生起する原因を探るために,刺激音の定位位置を定量的に測定する実験を行った。その結果,ある音の時間的前後両方に異なる方向からの音が存在する場合に,その音の定位位置が三つの音の呈示時間パターンによって5゜程度左右にずれることが分かった。このずれの角度は,聴覚におけるTau効果の効果量をうまく説明しており,Tau効果はこの定位誤差によって生じていると考えられる。これまで視覚をはじめとする他の感覚様相における時空間情報の統合は,高次の知覚過程において生じると考えられてきた。上記の結果は,聴覚においては,比較的低次の知覚過程で形成される音の定位知覚に時間パターンが影響することを示しており,視覚と聴覚とでは異なる時空間統合がなされている可能性がある。さらに,時間パターンの知覚的なまとまりの強度を操作した刺激パターンを用いて,知覚される空間パターンおよび個々の刺激の定位位置を心理実験によって測定した。その結果,時間パターンの知覚的なまとまりが弱くなってもTau効果の生じる効果量がほとんど変化しないことが分かった。この結果から,聴覚におけるTau効果が非常にロバストな現象であることも分かった。23年度には,視聴覚におけるTau効果の生じ方の違いを手がかりに,マルチモーダルな時空間統合過程の解明を目指す。
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