研究概要 |
従来の神経心理学の研究対象は脳機能の低下に伴う高次脳機能(認知,記憶,言語等)の障害であり,脳機能の異常な亢進が原因で起こると考えられている頭痛や幻肢痛は神経心理学の対象ではなかった。しかし,頭痛や幻肢痛も脳損傷と同様,生活に重大な支障をきたす神経症状であり,心理学的な評価も可能である。また,脳機能の異常な亢進という従来と反対の視点から脳と心について考察することも重要だと思われる。頭痛に関しては,筆者らは光過敏性を定量的に評価する方法を開発し,片頭痛患者が健常群よりも光に敏感であることを確認するとともに,読書時におけるカラーフィルターの使用が片頭痛の症状緩和に有効である可能性について検討した。さらに,工学的観点から日常風景に含まれる不快刺激の特定を試みた。画像処理技術を用いて風景画像を分析した結果,特定の空間周波数成分を含む風景画像が片頭痛患者に特に強い不快感を与えることを確認した。幻肢痛に関しては,回復のプロセスを定量的に評価する方法を開発するとともに,上肢喪失後30年以上が経過した症例においてもミラーセラピーが有効であることを確認した。また,幻肢痛のミラーセラピーと同様の手続きを健常者に対して実施した場合に生じる錯覚(ラバーハンドイリュージョン)を詳しく調べることによって触覚と視覚が統合される仕組みを明らかにした。これらの研究成果については論文,国際学会(国際応用心理学会),国内学会(日本心理学会,技術心理学研究会,多感覚研究会,関東臨床神経心理学研究会),招待講演,著書等を通じて社会に広く公表した。
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