本年度は基本6表情(喜ひ、驚き、恐れ、悲しみ、忍り、嫌悪)の画像を用いた検討と、表情認知における文脈効果の検討の一環として、無表情の認知に関する検討を行った。 基本6表情を用いた検討では、当初予定していた特徴点解析ではなく、顔画像の主成分分析の手法を導入した。実験材料として標準化された顔画像セット(JACFEE ; Matsumoto. 2008)に収録されている男女各3名の基本6表情と無表情、合計42点の画像を用いた。全画像の平均顔を基準として、モーフィング処理により各画像のShape-free画像を作成した。Shape-free画像のピクセル単位の濃淡値を用いて、PCAを実施した。その結果、41点の主成分(固有顔)を抽出した。一方、42点の顔画像を用いた評価実験を実施した。具体的には、感情的意味次元である"快-不快"、"活動性"、"力量性"を代表する形容詞対を一つずつ用いて、42点の画像に対する評価を求めた。各画像に対する3つの評価値の平均値を目的変数、41の固有顔を説明変数とする車回帰分析を実施したところ、例えば"快-不快"を目的変数とした場合に、第4固有顔(頬の上昇)の重み係数が高いことが示されるなど、各固有顔と意味次元との関係が確認された。来年度の検討課題として、同じ画像を用いた特徴点解析を実施し、顔の物理変数である特徴点変位と固有顔の関係について分析する必要がある。またカテゴリー判断実験を実施し、上記の意味次元との関係を探る。 無表情の認知の検討については、日常のコミュニケーション場面を意図した画像を撮影し、これを刺激とした。その際、モデルは男女1名ずつで、表情(喜び[2パターン]、怒り、無表情)と姿勢(腕組み、携帯を持つ、飲み物を持つ)を操作した。計24点の画像に対する、SD法による評価実験を実施した。因子分析の結果、"評価性(快-不快)"、"活動性"、"誠実性"の3因子が得られ、"活動性"において姿勢の違いが無表情の評価に影響を及ぼすことが確認された。
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