研究概要 |
本年度は基本6表情(喜び、驚き、恐れ、悲しみ、怒り、嫌悪)の画像を用いた検討と、自然な笑顔と演技の笑顔を用いた検討を実施した。 基本6表情を用いた検討では、表情のカテゴリー判断実験を実施した。実験材料として、標準化された顔画像セット(JACFEE;Matsumoto,2008)に収録されている男女各3名の基本6表情と無表情、計42点の画像を用いた。この顔画像を用いたカテゴリー判断、すなわち7つの選択肢(喜び、驚き、恐れ、悲しみ、怒り、嫌悪、感情なし)のいずれかに分類する課題を実施した。実験は大教室にて集団式で実施し、310名分のデータを収集した。判断の一致率を算出したところ、一部の画像でカテゴリー間の混同が見られたものの(驚きと恐れ、怒りと嫌悪)、概ねターゲットカテゴリーの判断の一致率が高い傾向が示された。 昨年度の研究で収集した感情的評価値(心理変数)、顔画像の主成分分析によって得られた固有顔(物理変数)の関係を分析することで、表情認知モデル(山田,2000)の3つの段階([1]物理変数の抽出、[2]感情的評価、[3]カテゴリー判断)の関係を検証し、モデルの精緻化を試みた。 自然な笑顔と演技の笑顔を用いた検討では、20名のモデルを対象として、笑顔の撮影実験を実施した。撮影の中で収集した演技の笑顔、および会話の中で表出された自然な笑顔をターゲットとして、両者の静止画像を抽出した。これらの画像を用いて、顔画像の主成分分析を実施したところ、第5主成分で笑顔を示すような固有顔が抽出された。一方で自然な笑顔と演技の笑顔の画像それぞれ20点ずつ用いて、自然な笑顔の判断実験を実施した。実験参加者は30名であった。自然な笑顔の判断頻度と主成分分析の固有値の相関係数を算出したところ、第5主成分で有意な中程度の相関係数が示された。このことは、第5固有顔が自然な笑顔と演技の笑顔の違いに関わる固有顔であり、言わば第5固有顔に示されるような笑顔全体の強度の違いが、両者の違いを判断する手掛かりになることが示唆された。またこの実験によって、笑顔の認知に関わる顔の物理変数(固有顔)と心理変数(判断)の関係が示された。
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