研究概要 |
現在,多くの日本語母語話者は,学校教育やマスメディアなどを通して,英語に由来する多数のカタカナ表記される外来語(カタカナ単語)に囲まれて生活している。したがって,日本語母語話者の心的辞書には,英単語の音韻情報や意味情報による影響を受けたカタカナ単語の語彙知識が貯蔵されており,英語の既有知識をも考慮した単語認知過程の解明が必要とされる。 平成22年度は,心的辞書機構のモデル構築に関する心理実験,および英単語とカタカナ単語の親密度調査を実施した。実験および調査では,一般的な英語能力を持つ日本人学生を対象として,英単語の認知過程においてカタカナ単語の語彙知識が果たす役割について検討した。課題として,英単語を刺激とした語彙判断課題と知覚的同定課題を実施した。要因として,参加者の英語熟達度(高/低),英単語の親密度(高/低)とそれらの英単語がカタカナ表記された場合のカタカナ単語親密度(高/低)を操作し,英単語およびカタカナ単語の親密度効果が生起するか否かについて検討した。実験の結果,英単語の親密度が高いほど反応が促進されるという一般的な親密度効果に加え,カタカナ単語の親密度については,逆に負の親密度効果が観察された。つまり,カタカナ単語の親密度が高いほど反応が遅延されるという結果であった。これらの結果から,少なくとも英単語を読む際に,日本人学生はカタカナ単語の知識を利用し,普段よく見慣れている親密度の高いカタカナ単語の知識ほど利用しやすく,それらの知識を利用するために,かえって英単語の認知を遅らせるという処理方略をとっている可能性が示唆された。
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