これまでに加齢によってストレスに対する脆弱性が亢進し、不安傾向が増加すること、また、その背景としてストレス刺激に対する認知機能の低下がある可能性を示唆する結果を得てきた。今年度は、C57BL/6J系マウスの若齢個体と老齢個体について網羅的行動テストバッテリーを用いた行動解析を行った。網羅的行動テストバッテリーは、被験体の一般的健康状態や神経学的所見から不安様行動、社会的行動、痛覚感受性、うつ様行動、聴覚性驚愕反応、プレパルス抑制、学習・記憶機能などをとらえる複数の行動テストから構成され、このテストバッテリーを用いそ若齢個体と老齢個体が様々な新奇環境ストレス場面においてどのような対処行動を示すのかを詳細に検討することによって行動・脳機能の加齢による変化を多面的に捉えた。行動解析の結果、老齢マウスは、握力や運動機能が低下するなど身体的機能の衰えが見られた。また、新奇環境下における活動性の低下、不安様行動の増減が認められ、ストレス事態に対する対処行動の加藤による変化がテスト場面依存的であることが示唆された。さらに、強制水泳場面では、老齢個体の不動時間が短く、浸水ストレスに対して過剰な反応を示している可能性が示唆された。老齢個体ではプレパルス抑制や作業記憶の低下が観察されたことから、注意力や認知機能の低下がストレス場面において積極的な対処行動を行うことを妨げている可能性が推察された。一方、社会的行動や痛覚感受性については加齢による変化が認められなかった。これらの知見から加齢によって亢進するストレス脆弱性の背景にある行動的・脳機能的特徴が明らかになった。
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