本研究の目的は、物語論的観点から識字教育論を構築していくことにある。継続的な参加的研究を通して申請者は、識字と「解放」とをきり結んで捉える従来の識字教育論では、正当に評価されない学習のあり方や学習者がいることを目の当たりにしてきた。理念に先立ち生身の人の思いや生き様から識字という営みを捉え直す必要があると考える。 そこで、申請者は物語論に着目する。物語論とは、人びとの間で構成される物語としてのナラティヴを読み解くことで、彼らに現前している世界を理解し、その世界への関与を可能にする方法論である。そうした視点から、フィールド調査とアクションリサーチを行い、識字実践を「自己とコミュニティの新たな物語の再構築過程」として再定義した。識字学習に対して多様な向き合い方を許容できる識字教育論の構築に向けた基礎的な作業を終えることができた。
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