21年度は、第一に、17世紀イギリスにおいて発行された宗教冊子を収集した。当時の宗教的な内容を扱ったテクストでは、死が正しい信仰に目覚めるための重要なモメントとして扱われるが、その内容は、記述の厚さや語彙の違いはあるものの、大人を対象として書かれたものと、児童の読み書きのためのテクストとの両方に共通する。そのため、当初の予定では児童のためのテクストを史料として収集する予定だったが、論点を明らかにするために大人のための宗教的冊子類を入手し、死が宗教的モメントとしてどのように扱われているかについて概観できる状況を整えた。 第二に、研究の発端となった19世紀の児童向け宗教冊子における死の扱われ方について、論文を作成した。20世紀中葉にはすでに、ブラックユーモアとして通用することになった敬虔な子どもの死というモチーフは、17世紀に端を発する子ども向けの宗教教育冊子のなかで、一定のパターンとして成立してくる。そのさい、身近な出来事として死を扱いながら、一方で重要な神秘的瞬間として死を伝達する言説が構成されてくる。さらにそれらは、大人にとっての喪の意味を担うことになるのだが、論文ではそうした特徴について整理した。 第三に、22年度に向けて、フランスにおける「死の舞踏」の図像資料および死の技法に関係する文献収集を行った。「死の舞踏」の壁画は15世紀から16世紀前半にかけて作成されたが、その後図版が出版されることはあっても、壁画が増加することはなかったという説がある。22年度は、そうした状況と、死の技法に現れる宗教観との関係について論文作成を行う予定であり、そのための文献・情報収集を行った。
|