23年度は、本研究の最終年度にあたる。当初の全体の研究計画では、イギリス近代における子どもに死を伝える宗教小冊子の構成と成立について明らかにすることが目的であったが、それは22年度の段階で一応の結論を得た。そのため、今年度は、子どもに死を伝えるという課題が、子ども向けの小冊子以外にどのような媒体をもっていたか、そしてそれらとの関連をどのように捉えるべきかという課題について、史料の広がりを調べ、今後の研究の方針を立てることにあった。 第一に、子どものための宗教小冊子以外に、次世代へと死について伝える媒体については、以下のように整理された。 1.大人のための宗教書のなかでも平易なものや挿絵の多いもの2.絵画3.彫刻4.墓碑5.葬送儀礼6.民話・伝説 これらの媒体を整理するための視角として、22年度までの明らかにされた、子どものための宗教小冊子においては、死にゆく者の帯びる聖性や、死のもつ神秘的な側面が簡略化されてしまったという事実を用いることとした。第一に、大人のための宗教書においては、日常生活実践としての死が描かれることはあまり多くはないが、少数の例は見出せる。そのなかでは、死にゆく者が天国についてあるいは主について、なんらかの知を得るという言い回しが繰り返される。しかし、17世紀に初めて作られた子どものための宗教小冊子には、そうした言い回しはない。また、少なくとも葬送儀礼と民話・伝説においては、人々が死に対して抱く不安や恐れ、悲しみが、子どもにも伝えられたと考えられる。 こうしたことから、17世紀に端を発する、文字を媒介した子どもの宗教教育においては、一旦、死に伴っておこるさまざまなことがらのなかから、信仰を促す言語に回収されないものを排除・無視もしくは隠蔽されたと予測できる。
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