本年度の成果は、以下の三点に集約できる。(1) ドイツにおけるカリキュラム論の特質を明らかにすることができたこと、(2) ドイツにおけるカリキュラム改革と授業実践との関係についての資料収集を行うことができたこと、(3) わが国のカリキュラム論、とりわけ戦後カリキュラム評価の議論との関連からドイツのカリキュラム改革を検討できたこと、である。 この三点に関わる具体的な成果は、今後の検討課題とも関わって以下のようになる。まず、TIMSS・PISAショック後のドイツにおいては、コアカリキュラムに関する議論が多様に展開されている。(1)知識を基盤としたコアカリキュラム論、(2)州のレールプランレベルでのコアカリキュラム論、(3)一般陶冶論を基盤としたコアカリキュラム論などである。この種の議論の多様さと、伝統的なBildung概念の伝統が根強く存在する点が、ドイツにおけるカリキュラム論の特質である。現在ドイツにおいては、コンピテンシー(Kompetenz)獲得に向けた授業改革が進行中である。2010年3月にベルリンのSternberg-Grundschuleを訪問し、統一後ドイツにおけるカリキュラム改革と授業改革との関連について、実際の授業の観察および資料の収集、授業者との意見交流を行うことができた。さらに、授業実践レベルでの教育スタンダードの導入状況の検証およびテスト開発などを行っている教育制度開発研究所(IQB)を訪問することができた。今回収集した資料を基に、州レベルでのカリキュラム改革の現状や実践上の問題点などを明らかにすることが今後の研究課題である。 さらに、これらドイツにおける動向をBildungやAllgemeinbildungといった伝統的な教育概念との関連のもとで検討すること、またわが国のカリキュラム改革に建設的にコミットしていくことなどが広い意味での研究の課題として残されている。
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