本年度は、18世紀後半ドイツの絵入り啓蒙書における「身体=メディア」論の基礎的な分析研究を進め、いくつかの専門学会で発表を行った。特にこの時代の絵入り啓蒙書の代表となるJ.C.ラヴァターの『観相術断片』を中心となる資料として読解、分析を行っている。まずその背景となる同時代の啓蒙教育学における「身体=メディア」論を母子の関係性に焦点を絞って、教育哲学会において発表した。そして、その発表原稿に加筆し、教育哲学会誌『教育哲学研究』に研究論文を投稿した。同原稿は修正付きの採択の評価を得て、3月下旬に採択が決定、5月上旬に刊行されることになっている。また「身体=メディア」論の概念規定について、アートミーツケア学会において発表を行った。歴史研究の内容をわかりやすく紹介する趣旨の発表であったために、日本における「身体=メディア」論を比較材料として論じた。加えて、未公刊の文献や古書籍を収集するため、平成22年2月にイギリスおよびドイツに渡航した。イギリスヨークの18世紀研究センターやドイツベルリン教育学研究所などで、ラヴァターや同時代の重要な教育者(特に啓蒙家H.ステファニの言語教育論)の資料を収集した。さらに日本およびドイツで、この18世紀後半という時代を分析する方法論を探る研究も行っている.ラカン精神分析学を枠組みに18世紀から20世紀までを横断する現在のドイツ・メディア論の代表者Fr.キットラーの著作を参照しながら、新たに「身体=メディア」論を構成することも試みている。
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