平成21年度は、EUの生涯学習に関する政策文書・関係団体による報告書・ジャーナル等の諸論稿を収集・精読し、全体を俯瞰するとともに、最新の動向をできるだけ体系的に把握することに努めた。その結果、今日のEUレベルでの生涯学習をめぐる状況の中で、本研究課題に関連する動向として、以下の特徴が見出された。即ち、(1)2000年以降、学校教育・高等教育・職業教育・成人教育という各領域を「生涯学習」という大枠の中でとらえ直すとともに、加盟国間での共通した指標の開発により、生涯にわたる人間の発達という観点から相互に補完し合う教育体系をEUレベルで構築しようとする動きがみられること、(2)支援対象者の明確化と解決策に関する議論が進む中で、インフォーマル及びノンフォーマルな学習形態への注目が集まっていること、(2)欧州人としての市民性を養うための教育プログラムのより柔軟な開発と適用範囲の拡大が推進されていること、(3)多くの加盟国では、バランスの取れた教育・訓練制度の構築に困難を抱えており、特に職業教育に携わる者の能力開発による専門性の確立が求められていること、(4)労働市場をめぐる状況としては、変化の激しいグローバルな社会に順応できる質の高い能力を身につけた人材に対する需要は高まっているが、実際の供給がそれに見合っていないこと、(5)若年者の就労支援については、社会的不利益層の若者に対する取組が十分でなく、多くの加盟国において、10代後半~30代を中心とした貧困層がみられること、(6)社会保障制度、社会階層差、労働市場の性質等の相違により、就労支援の方法には加盟国間で著しい相違が存在する一方、EUレベルにおける複数国間での協同事業の奨励により、国家の枠を超えた相互協力体制が築かれつつあること、等が明らかになった。以上のほか、関連する研究集会等にも積極的に参加し、当地の関係者にとっての議論の焦点を掌握し、人的交流を深めることにも注力した。
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