本研究は、夜間定時制高校を卒業した若者や教職員の聞き取り調査から、学校から就労への移行過程に困難を抱える若者を包括的に支援していくシステムを構築していくことを目指して、学校教育機関が担う機能の在り方を検討することを目的に進められている。本年度は、次年度に予定している夜間定時制高校卒業生のインタビュー調査の準備として、以下の実地調査を行った。 (1) フィンランドでパイロット的に展開されている特別支援教育プログラム(OMAURA・YOPO)が、義務教育をドロップアウトするリスクのある子ども・若者に対してどのような教育・支援として機能しているのかについて、実施校や行政機関を訪問して聞き取り調査を行った。このプログラムでは、8年生・9年生(日本では中学3年生、高校1年生に相当)を対象に、一つの職場において約2カ月程度の期間職業実習を行なっている(生徒はそれを年間3~4回経験する)。こうしたインフォーマルな教育をフォーマルな教育のなかに組み込みながら(むしろ前者をメインにしたカリキュラムにすることで)、自己肯定感を育てながら、教育制度、社会統合を促し市民にするオールタナティヴな教育を提供している。興味深いのは、前述の職業実習のカリキュラムだけでなく、担当する特別教育教師に加えてユースワーカーが配置されていることにある。ユースワーカーは、生徒の受け入れ先を開拓したり、林間学校などの特別活動や生徒の放課後や生活全般に関わる仕事を担当している。我が国においても、ようやくスクールソーシャルワーカーが果たす機能に注目されはじめてきたが、教育活動に教師以外の専門家が深く関わるプログラムは、教師の専門性をこえた困難な生徒の生活状況の改善を考えた場合に参考になる。また夜間定時制高校の生徒の多くが、就労か進路未定で卒業していく実態を鑑みれば、長期の職業実習を通じて職業訓練の機会を得られ、その経験を通じて職業的自立を促す制度設計を考えるうえで有効な議論を提供できる。 (2) 知的ならびに発達障害のある若者の就労支援を行っている長崎能力開発センターへの実地調査を行い、ドロップアウトならびに社会的縁辺に追いやられてしまうリスクのある若者の安定した職業的移行を考えた場合、教育機関における職業実習と生活指導をベースにした教育プログラムには一定の有効性がありうるという仮説的知見が得られた。その上で、2年間の職業訓練プログラムを終了したあと、それぞれの地域で就職した若者の生活を支援するシステムの必要性が、その後の仕事の定着を考えた場合に課題になっているという職員の語りには、不安定を生きる若者たちの教育訓練機関を出たあとの社会生活において、他者とのつながり(社会関係資本・社会資源)をどうつくっていけるのかという課題と重なる有益な論点を得られた。
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