本研究は、夜間定時制高校を卒業した若者や教職員の聞き取り調査から、学校から就労への移行過程に困難を抱える若者を包括的に支援していくシステムを構築していくことを目指して、学校教育機関が担う機能の在り方を検討することを目的に進められている。本年度は、以下の調査研究を実施した。 (1)主たる調査対象校である首都圏の08年3月に廃課程となった夜間定時制高校(以下、U校)の元教諭Y氏と卒業生3名の聞き取りを行った。元教諭にはこれまでの教員生活と関わらせたかたちで氏が行ってきたU校での教育実践を語っていただいた。卒業生には前年度の予備調査で実施した3名同様に、現在の生活状況、U校入学の経緯、高校生活そして進路決定を中心に聞き取りを実施した。 Y氏の聞き取りから、U校へ異動する以前の高校現場での教育経験がU校に通う社会的に不利な状況の生徒たちへの向き合い方に大きく影響していた点、90年代半ば以降、U校が特別活動をベースとした学校づくりを展開していくうえで、核になった数名の教員の存在が仮説的な知見として浮かびあがった。卒業生の調査は、特別活動をベースにした学校づくりによって義務教育の期間に不登校を経験してきた彼らがその負の経験を克服していった点、3人とも卒業後4年制大学/短期大学に進学したが結果的に中退し、非正規労働者になっており、卒業後の移行の不安定な点が浮かび上がった。個別ケースに即してより丁寧な分析をしていく予定である。 (2)フィンランドでパイロット的に展開されている特別支援教育プログラム(OMAURA・JOPO)が、2010年度に制度化され各自治体は設置義務化されたため(JOPO)、その動向を把握するために実地調査を行った。今回は2つの学校を訪問し、うち1校では職場(レストラン、自動車のディーラー、ハンバーガーショップ)に赴き、そこで働いている生徒やメンターから聞き取りを実施した。実際にどのような連携をしているのか(成績評価の仕方含む)について理解できるとともに有益な資料を得られた。それらをもとにより丁寧な分析をしていく予定である。
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