本研究は、日英公文書館等が所蔵する一次資料を調査・発堀し、コミュニティを基盤とした社会教育・成人教育制度の成立過程を考察することを目的とするもので、本年度は、前年度の資料収集を継続しつつ、特に、ロンドン教育当局と東京市の代表的事業に焦点を当て、現場の動向とその特質を明らかにする研究を実施した。 まず、ロンドン・カウンティ・カウンシルが開発したリテラリー・インスティテュート(1919年開校)は、公立夜間学校と成人教育を接合し、学問と生活の効果的な統合を図ることで、新たな受講者の開拓を目指した試みである。人文系科目の重点化、犬都市労働に伴うロンドン市民の内面世界の危機の認識、入学者数の増大に対する学校数の限界という夜間教育機関の制約への物理的対策等を要点とし、両大戦間期のイギリス成人教育に構造的変動をもたらす先駆的な事例として、歴史的意義を持つものであった。 また、東京市最大の教育補助団体の一つである東京市連合青年団(1920年発足)は、町内分団の設立奨励、都市青年団経営の研究、青年の日常生活や心理の理解、大都市の修養機関としての固有性の追求等を特徴とし、東京府や市内各区の青年団から相対的に独立しつつ、政策形成や連絡調整等の役割を果たしていた。専門講師を配して、共同的関係を欠く大都市独自の社会教育としての青年教育を本格的に実用化し、柔軟な活動を継続的に展開したのである。 東京市とロンドン教育当局は、20世紀初頭の大規模な社会変動・人口移動を背景に、伝統的ないしフォーマルな教育を地域や実際生活に根ざしながら、改革する観点を持っており、このことが、両大都市のコミュニティを基盤とする新たな試みに現代的性格を付与したことがわかった。
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