2010年度の研究では、本研究のテーマである「アメリカ・リベラル改革の市民性教育と民主主義-デューイの学校論の実践的展開」という課題設定に対して、次の二つの観点から考察を行った。第一は、デューイの学校構想に示唆を受け影響されたエルシー・クラップの進歩主義の学校を取りあげて検討した。クラップは、コロンビア大学でのデューイの指導学生であるとともに、彼の授業のティーチング・アシスタントを務めるなど信頼も深かった。クラップが1923年に教師として赴任したシティ・アンド・カントリー・スクールの実践について考察した。その上で、クラップが学校改革に従事したケンタッキー州ジェファーソン・カウンティのロジャー・クラーク・バラード・メモリアル・スクールと、ウエスト・ヴァージニア州リーズヴィルのアーサーデール・コミュニティ・スクールの実践について検討した。デューイの学校論の実践的展開として、コミュニティを中心としたクラップの進歩主義学校を研究した。第二に、学習経験に基づくデューイのカリキュラム構成について、教科の関係性を軸にした彼の構想から研究を行った。公的な枠組みとしてのカリキュラム観念から、学習経験を基盤にした彼のカリキュラムの概念への転換を考察した。そして、そのことがもつカリキュラムの公共性とコミュニティ、そして民主主義と市民性に根差した教育の可能性を研究した。これによって、リベラル改革における市民性と民主主義の主題について、デューイの学校改革の理論と実践をつなぐ形で明らかにした。
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