本年度は、以下の2点についての調査研究を実施した。 1.現代英国中等教育における「学校の多様化」政策についての研究 労働党政権の下、イギリスで展開されてきた「学校の多様化」政策は、教育内容や学校経営の面で特色をもつ学校を増加させることで、協同的・補償的・応答的な特徴をもつ中等学校制度の創出を目指すものであった。しかしながら、この政策によって教育機会の不平等や教育資源の不公正な分配が生じたとの批判も存在する。本研究では、「学校の多様化」政策が発表されてから9年が過ぎ、その結果どのような公費維持中等学校制度が現在生み出されているか、また、その効果に対する現在までの評価や指摘されている課題について検討した。さらに、こうした検討作業を踏まえて、労働党政権が進めた「学校の多様化」政策の意味や意義について考察を加えた。この研究の成果を関東教育学会第58回大会で発表した。 2.「学校の多様化」についての実態調査 「学校の多様化」を生み出している存在として信仰学校に注目し、その教育内容や学校経営の特徴、さらには、信仰学校を管理運営している宗教団体の組織や役割について知るために現地調査を実施した。 (1)マイノリティ宗教の中等学校への調査:イギリスでただ一つの公費維持シク教学校であるグル・ナーナク・シク・アカデミーのラジンデール・シン・サンドゥー校長に教育内容や学校経営の実態について聞き取り調査を行った。 (2)マイノリティ宗教団体の教育プロバイダーとしての組織および役割についての調査:ブリティッシュ・ユニオン・カンファレンス・オブ・セブンスデイ・アドヴェンティストのアン・ピルモア教育局長に、キリスト教の一宗派であるセブンスデイ・アドヴェンティスト教会の学校管理機関としての役割について聞き取り調査を行った。 今後は上記の調査結果をまとめ「学校の多様化」の実態の一端を明らかにするとともに、宗教団体以外の教育プロバイダーによる「学校の多様化」の実態を調査し、現代のイギリス中等教育改革についての研究をさらに進展させる。
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