1.ホネット承認論にもとづく人間形成論の位置づけ:ホネット承認論は、ヘーゲルやリクールの承認論と異なり、ドイツ教育学において経験的研究との接続がなされている。そのため、理論と実践を架橋する人間形成論を構築する可能性を有している。このことは、社会学的人間形成論と哲学的人間形成論の間に、ホネット承認論にもとづく人間形成論が位置づくことを示している。ホネット承認論は、社会的承認にもとづく人間形成を射程におさめている。その意味で、実存的側面を強調するトドロフの承認概念とは異なる。2.討議倫理学と承認論の相違点:討議倫理学は、普遍化原則などの抽象化作用と基礎づけを重視することによって、生活世界における明証性を討議することを中心におく。そのため、討議倫理学において、具体的生活を考察する際、適用問題が発生する。承認論は、こうした抽象化作用と基礎づけを重視することなく、具体的生活や生活史を取り込んだ考察を可能にする。3.了解概念と承認概念の共通性と相違性:共通性は、両概念とも、生活世界に関わるコミュニケーション領域の概念である。また、このコミュニケーションは自己形成へつながる視点を含んでいる。相違性は、感情を定義に含むかどうかという点にある。承認概念は、不正の感情という感情的側面を含む概念であるが、了解概念はそれを含まない概念である。そのため、了解概念において、言葉にならない否定された経験を取りあげることは困難である。ここに、承認概念の人間形成論としての可能性がある。4.ホネット承認論の教育学的な発展的研究:ホネット承認論をジレンマや葛藤を抱える個人の語りと重ねあわせることによって、教育の場面における教師と生徒や親と子どもに現れる承認のずれや問題を明らかにするがせきる。こうした発展的研究が、ドイツ教育学において、人間形成と伝記研究として進められている。
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