1.人間形成と承認:承認論を人間形成論として読む場合、承認行為が他者に従属する営みでありつづける限り、教育における承認行為は権力的な行為として現れる。こうしたリッケンの指摘に対し、ストヤノフは、教育における承認行為は自律へ向かう行為であるため、権力的な行為として捉えるべきではなく、自己の形成や発展にかかわる営みとして捉えるべきであると述べる。承認行為が自己形成に寄与する限り、権力、非権力という区別そのものが無効になる。2.歴史的発展と自己実現:自己実現は、普遍的な尊重と善き生を可能にする相互主観的な安全装置を必要とする。善き生とは、伝統的社会のエートスではなく、特別な生活形態の多様性が保障されることである。そのため、ホネットは、情報産業の広がりを自己実現の拡大として捉える。つまり、ホネット承認論は、自己実現を可能にしてきた人類の歴史的発展を組み入れた理論である。3.承認と身体のポリティクス:ホネット承認論は、人間の傷つきやすさと社会的コミュニケーションという視点からみれば、バトラーが指摘しているように、承認行為を成り立たせている社会的地平そのものを問う構造が不十分である。このことは、プレカリアスな生において承認の社会的地平から排除されている者たち自身のレヴェルから身体的傷つきやすさと世界をつなぐ回路が十分に用意されていないということである。そのため、承認行為が異なる承認を生み出す内包的な破裂を引き出すことができるような、承認の否定にみられる自己形成論的なポテンシャルを救い出すことが、承認と人間形成を論じる際に必要な視点といえる。
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