本研究は、演劇的手法を用いた学習に関して、(1)日本の教育実践の蓄積の掘り起こし、(2)イギリスのドラマ教育の理論および実践の検討、(3)学校現場との共同授業研究の3つを研究の柱としている。本年度は主に(2)と(3)に焦点を当てた。それぞれの成果は以下の通りである。 (2)6月と3月に2度の渡英を行い、小学校3校、中等教育学校1校にてドラマの授業あるいはドラマの手法を用いた授業の観察を行った。特に、Wimbledon Park Parimry SchoolのJo Fife先生の授業には計6日間訪問し、分析のために必要なビデオ録画を得ることができた。それをもとに、ドラマによって引き起こされる学習の様相やそれを可能にする教師の働きかけについて分析を始めている。物語の「隙間」を埋めるような即興的活動の設定、教師の応答による架空の状況への子どもの「巻き込み」、「学びの作法」としてのドラマの手法の子どもとの共有などの特徴を見出している。そうした成果の一部を、編集したビデオとともに、日本教育方法学会のラウンドテーブルおよび他4箇所の研究会にて発表した。欧米のドラマ教育の紹介が日本でさかんに行われるようになってきたとはいえ、実際の映像をもとに授業過程を報告・考察するものはこれまで存在してこなかったため、大きな反響を呼んだ。 (3)和歌山大学附属小学校においてドラマ教育の知見をもとに授業における演劇的手法の可能性を検討する研究会を行った。今後、同校の先生方と実践研究を進めていく予定である。また、神戸大学附属住吉小学校の安部明直先生とも、2011年度の共同授業研究に向け、単元づくりのための準備を行った。
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