前年度に引き続き日本とタイで資料を収集した。タイでは国立図書館で雑誌や写真を探索し、国立公文書館では教育省ファイル、外務省ファイル、7世王ファイルから関連する文書を収集した。また、日本では外務省外交史料館、防衛省防衛研究所、国立国会図書館、上野動物園、ボーイスカウト日本連盟、東京都公文書館、大阪や東京の公立図書館などで関連する文書、図書、雑誌記事、新聞記事などを収集した。 本年度の研究成果を反映させた単著『海洋少年団の組織と活動-戦前の社会教育実践史-』(2011年、九州大学出版会)には、1934年に少年団日本連盟の練習船が東南アジア一周航海をした途中にタイに寄港してタイの子どもたちと交流したことと、1935年にこの練習船をタイに譲渡する事が検討されたことに言及している。 1929年、タイの子どもの組織である「ルークスア」に所属する子どもと指導者が日本を訪問した。これは、現在の日本タイ協会の設立に関与した大倉喜七郎男爵が資金提供をしたと考えられる。タイからの引率者が帰国後に出版した訪日の報告書を入手しており、公文書で発見した日本での詳細な行動記録を含めて、翻訳を進めている。また、1931年には日本の子どもがタイを訪問していることを踏まえ、これらの行き来の意義を検討している。 1935年、タイから日本に2頭の象が贈られた。ただ、タイから日本への運搬費用やタイ人の飼育係の給料などは、折衝の結果、日本側が負担することになった。2頭の象は神戸港に着き、鉄道で運ばれた。1頭は大阪の天王寺駅から天王寺動物園に、もう1頭東京の汐留駅から上野動物園に歩いて移動した。その後、それぞれの動物園で日本の少年団やタイの関係者などによる歓迎式典が開催された。このような、言わば動物外交の意味について、1937年の日本の少年団のタイへの答礼訪問を含め、両国の外交関係を念頭に検討している。
|