本研究の目的は、プライベート・セクター(民間企業や財団)からの資金を得ているアメリカのミュージアムが、教育プログラムにおいて、教育機関としての公共性や自律性をいかに維持できるのかをケース・スタディによって明らかにすることにある。今年度は、本研究の中心的な事例であるワシントンDCのナショナル・ポートレート・ギャラリー(NPG)におけるプラベート・セクターによる教育プログラム支援のケース分析を中心に行った。具体的には、(1)これまでに収集した資料の整理、(2)関連文献の収集および精読、(3)資料調査(NPGライブラリーおよびスミソニアン協会アーカイブス)、(4)展示調査(NPG)である。その結果、ミュージアムが行う教育プログラムの意図(伝達しようとする価値)には、ミュージアム側の見解のみが反映されているのではなく、資金提供者であるプライベート・セクターの意向もまた含まれていること、プライベート・セクターは単なる資金提供者ではなく、教育プログラムなどのミュージアムの「コンテンツ」に直接に影響を及ぼしうるアクターとして位置づけられ得ることなどが考察された。一方、ミュージアム側は、プライベート・セクター側のある種の私的な意図に対して、自らの公共性を維持する必要がある。この点に関しては、文献収集を進めると同時に、ニューヨークのメトロポリタン美術館の教育普及担当者に聞き取り調査を行い、教育普及プログラムの資料やデータ収集を行った。聞き取り調査の結果、ミュージアム側は、実施する教育プログラムの目的に合った財団に協力を依頼しており、ミュージアム側も資金提供者側の意図を諮りながら、戦略的に資金源にアプローチしていることが現時点では推測される。
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