本研究の目的は、若年者が「学校から社会へ」の移行過程において直面するさまざまな課題や困難を見通し、彼らの複雑で長期的な移行を支えうる教育実践のあり方(およびそのような実践を可能にする学校と地域社会との連携のあり方)を構想することにある。その際、特に地域経済の疲弊が著しく、貧困・社会的格差に基づく不利が集中している都市の典型事例である北海道釧路市を、主要な研究対象として取り上げ、全国調査のデータや、欧米諸国での経年的追跡調査等と対比しつつ、当該地域が持つ固有の課題等も踏まえ、複雑化する若年者の移行過程について、その実態を明らかにするとともに、実際に取り組まれている若年者支援の実践にそくして、求められる支援のあり方について、可能な限り具体的に構想することを目指した。 以上の研究目的に基づき、2010年度は、以下の研究成果を得ることができた。 1、釧路市で取り組まれている「生活保護自立支援プログラム」、特にその一環として取り組まれている「高校進学希望者学習支援プログラム」の取り組みについて、政策文書や当事者への聞き取りを通して、取り組みに至る経緯を整理するとともに、福祉行政の担当者やNPO職員、学習会に参加している当事者(中学生)への聞き取りを行い、釧路市における若年者の自立支援の現状と課題について明らかにすることができた。具体的な研究成果としては、2010年に発表した、2本の論文がこれに該当する。 2、前年度に引き続き「若年者の教育・職業の移行過程とキャリア形成に関するコーホート調査」(「若者の教育とキャリア形成に関する調査」)に研究協力者として参加し、若年者の移行に関する地域特性・地域間格差の諸特徴の分析を行った。これらのデータ分析を通して、都市規模・都市類型に基づく、若年者移行の諸特徴を明らかにすることができた。この成果は、国際社会学会(ISA)における、共同の報告としてまとめられている。 3、昨年度の研究において明らかになった調査対象地域(釧路・道東)における高卒者の進路構造を踏まえ、道東地域における総合学科高校の教員や教育行政関係者への聞き取りデータを活用し、地場産業の疲弊が進む地域社会における、若年者の自立を支える中等教育のあり方について、一定の知見を明らかにした。
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