本年度の研究実施計画に基づき、主としてブルデューの文化的再生産論および合理的選択理論に依拠した過去の諸研究のレビューをふまえ、それらを実証的に検討する適切な方法について検討するとともに、それらの知見を適切なデータセットに適用して分析することを試みた。 研究の主な知見を、裏面に記した研究成果と対応させて以下に述べる。 「高校生の教育期待形成における文化資本と親の期待の効果」では、ブードンの枠組を適用した教育達成過程の理論的・実証的研究の再検討に関する昨年度までの成果をふまえ、文化資本論の理解を新しい観点から検討することを試みた。その結果、文化資本の1次効果ばかりでなく2次効果に着目する必要があること、その2次効果は親の教育期待を反映している可能性が高いことなどが明らかとなった。 「現代の階層社会1」および「教育達成における階層差の発生メカニズム」では、これまでの成果をふまえて、教育達成過程の階層差を改めて把握し直すとどもに、階層差の生成メカニズムをとらえる、新しい枠組として「教育的地位志向モデル」を提案した。 なお、年度の半ばからは、家族社会学会の実施した第3回全国家族調査、(NFRJ08)のデータを用いた分析に着手し、教育達成の階層化に関する、従来の研究枠組を再検討することも試みた。その結果、「学歴の家族・親族間相関に関する基礎的研究」および2つの学会発表で示したように、教育達成に対する拡大家族の独自な影響が存在することを明らかにし、核家族の枠内に留まってきた従来の階層研究の枠組を見直す必要性に言及した。
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