本年度においては二つの方面で研究成果を得ることができた。第一は、20世紀米国における長欠対策を知る上でもっとも重要な手がかりとなる、visiting teacher(訪問教師)の初期活動に関する研究を展開できたことである。Visiting teacherはスクールソーシャルワーカーの前身であり、倉石が日本において長年研究してきた高知県の福祉教員を先取りする極めて興味深い存在である。このvisiting teacher発祥の地であり、全米で最も早くから公費での雇用に踏み切ったニューヨークにおいて資料収集を行い、鍵となる民間団体であるニューヨーク市公教育協会、およびニューヨーク市教育行政サイドの極めて貴重な一次資料を入手することができた。この成果に基づき、高知県の福祉教員との比較を試みた英文論文、およびニューヨーク市公教育協会の動向を特に詳しく分析した和文論文を刊行することができた。また教育委員会による雇用を契機とした制度化によりvisiting teacherに起きた変化を論じた論文を査読付学術雑誌に投稿し、2011年度中に掲載されることが決定した。 第二に、京都市東九条地区におけるセツルメント的役割を果たした「希望の家」に関する調査を進め、大きな進展をみた。一次資料である『希望の家』新聞の読み込みを進めるとともに、関係者を訪ねヒアリングを行った。また京都市行政当局による東九条改善事業に関する行政資料の収集、ならびに学校単位・市教委サイドの資料収集も行った。その成果に基づく論文は、2011年度中に公刊される予定である。
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