本年度においては、大きく三つの方向で研究を進めることができた。第一に、日本における長欠対策の重要な担い手である福祉教員(高知県をはじめ各地で展開)の事例と、その比較のカウンターパーツとして注目している米国のvisiting teacher(訪問教師)の事例とを統合的に捉える視角として「学校に来ない子ども」論の地平に立つことの有用性を確認できた。具体的には、日本教育社会学会大会の部会「学校に来ない子ども」部会において福祉教員とvisiting teacherの事例の検討を行い、従来の不登校研究者との間で有益な議論を交わすことができた。第二に、米国のvisiting teacher研究をひきつづき展開させ、1920年代におけるコモンウェルス財団非行予防プログラムの助成を得ての全米への拡大期について資料を分析し、日本教育学会大会にて報告するとともに論文として成果を公表することができた。またニューヨーク市におけるvisiting teacherの展開における重要な側面である、無学年特別学級運営室を通じての精神薄弱児、障害児教育との関わりについて研究報告を行い、研究成果を論文としてまとめることができた(学術誌に投稿中)。第三に、高知県の福祉教員についての資料調査をさらに進め、高知県教職員組合の倉庫に私蔵されていた、昭和20年代の貴重な一次資料を大量に発掘することができた。福祉教員制度発足当時の「高知県福祉教育協議会」の活動の様子がこれによって正確に描くことができるようになり、今後の研究の精緻化に向けて大きな弾みとなった。
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