研究二年度の平成22年度においては、前年度に引き続き、I.進学行動の経済学・社会学的分析の融合のための文献研究(教育経済学・高等教育研究を中心)と、II.大学教育の経済的効果(教育経済学を中心)に関する文献研究・さらには前年度入力データに基づく収益率作業を実施した。結果として、男子については前年度まで明らかにしていた1990年代後半以降に収益率が急速に拡大してきていること(2004年データまで)に加えて、それ以降収益率が拡大を続けており、2009年時点で1970年代半ばの収益率の水準を超える状況に至っていることを明らかにした。また、これに加えて、男子大卒者の産業・企業規模別クロス収益率を算出した。産業・企業規模別収益率とは、高卒者の産業・企業規模別の賃金プロファイルと大卒者の産業・企業規模別の賃金プロファイルの組み合わせに基づき、すべての高卒就職パターンとすべての大卒就職パターンの組み合わせに基づいて、それぞれの場合の大学への進学の経済効果について計測するものである。この結果からは、大学進学の経済効果が期待できない産業・企業規模に関する就業パターンが減ってきていることなどが明らかになりつつある。以上のことは、平均的にみた場合の大学進学の経済的効果が上昇する中で、従来であれば大学進学と同様もしくはそれ以上に経済効果が見込まれた高卒者就業機会が減少していることを意味しているのである。すなわち、平均に注目してみても、分散に注目して見ても大学進学の経済的効果が高まる傾向が明らかになっている。
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