中国大陸の学校制度研究を土台として、香港、マカオ、台湾および東南アジア諸国を対象に、同じ文化的背景、異なる社会的背景の中で、どのような学校制度を構築しているのかを明らかにするため、最終年度である平成24年度は、(1)中華圏各国の学校制度を比較研究するための資料・情報収集の継続、(2)現地訪問による情報収集をおこない、整理した。後者については、台湾を訪問し、中華民国教育部等において資料収集をおこなった他、台北郊外の公立小学校、公立幼稚園、私立幼稚園等を訪問し、教室や授業を参観し、教員と意見交換を実施した。これまで文献調査や訪問調査を進めていく中で浮かんできた疑問を解決するための訪問であり、就学前教育および小学校での英語教育の現状と課題などが確認でき、十分な成果が得られたと考えている。 本研究は、複数の国・地域の学校制度比較であり、これらを見通すための視点を得る必要があった。この点において、言語教育(英語教育、母語教育、中国語教育)、就学前教育の学習の位置づけなどが、各国・地域の学校制度をみるための視点として有効であるとわかったことは、本研究の成果の1つといえよう。例えば、英語教育という新しいものが小学校に入ってくる際に、すでに豊富な経験を有しているシンガポールや香港は別として、マレーシアでは英語で算数や理科を教えるという課題になり、学力低下や母語教育の劣化という観点から中国系の反対を引き起こした。香港に近いながらも、旧ポルトガル領という特殊な状況にあるマカオでは、広東語、中国標準語、ポルトガル語といった外すことのできない言語の中で、香港より抑えた教育がおこなわれていた。台湾では就学前教育までを巻き込んだ格差の問題に発展していた。このように同一の課題に対して、さまざまな差が生じること、そしてその背景に各国の学校制度の違いがあることがいくつかの点で確認された。
|