本研究は、地方分権化された教育行政・制度を有しながら、平等性・公正性と優秀性を高い水準で達成しているとされるフィンランドの教育システムのあり方を、(1)教育機会の均等、(2)財政配分、(3)教員確保、(4)カリキュラム(教育内容)という4つの視点から調査研究することにより、「フィンランドの地方分権的教育行政は、平等と公正を担保する機能を制度の中にヴィルトインしている」という仮説の検証を試みるものである。 本年度は、昨年度に引き続き、研究初年度の基礎調査を踏まえ設定した「地方分権化から10年を経て徐々に地域間格差が顕在化しつつある」という仮説について、近年における教育政策の分析を通じて検証を試みた。その過程の中で、2008年以降の経済状況の変化、ならびに近年における政局などの影響により、教育行政における国と地方の役割に変化が生まれつつある状況が明らかになった。昨年度は、主に、教育行政機関を対象として調査を実施し、地方や学校の裁量を侵すことなく、平等性を担保する仕組みとして緩やかなガイドラインの導入を教育行政の諸領域で進めていることを明らかにした。 本年は、そのことを踏まえ、中央教育行政機関(国家教育委員会・教育文化省)、地方教育行政機関(市の教育局)、学校という3つのレベルで調査を実施し、その浸透を明らかにした。このことから、フィンランドの地方分権的教育行政では、教育の中身については現場に権限を委譲しつつも、教育の基盤整備における国の責任を明確化し、国がこれを保障することにより、比較的均質な教育の提供を実現させていることが明らかになった。
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