本研究では、フランス独自の社会状況や制度的特質を鑑みて、学校教育の主流からドロップアウトする若者、トラッキングのメカニズムによって排除される者に注目する。 21年度は、戦後の教育の民主化においてどの階層が最も就学率を上げ、高い学歴を獲得したのか明らかにし、同時にその逆の労働者層との比較を行った。以上から、上層と労働者層における格差はより深刻化していて、平等とされる学校教育の機能不全が浮上した。つまり、校区制の緩和による学校回避(evitement scolaire)と進路指導による民主的な隔離(democratisation segregative)の原理についてより深める必要性が確認された。 特に学校教育制度におけるこうした階層間格差の根底は、フランスの先行研究では進路指導に問題があるとされている。こうした排除構造の一端が、学校選択の理由となる外国語科目の選択、選択科目の選択といった学校のトラッキング効果(内部からの排除)が、校区制緩和との関係でより中間層の保護者に有利に働いているため特定の学校を回避していること。あるいは、低家賃住宅への集住が際だつ移民・貧困層の住宅隔離によって校区の階層バランス(社会的混淆)が悪化している状況があり、そうした地区から抜け出せないためゲットー化が深刻化している。ゆえに、学校回避と民主的な隔離が同時並行で進められていることが判明している。 22年秋に、フランスの研究者を招聘し、先方の研究状況を報告いただき、意見交換を行った。フランス教育学会の研究懇話会という形をとり、広く学会会員に公開にて行った。研究会では、すでにフランスの教育省が行っている質的調査の動向を紹介してもらいながら、その論争点を明らかにした。ここではこれまで国内において充分に紹介されることの少なかった教育統計および社会統計を活用し、統計から読みとれる学校教育と郊外都市の実態、社会病理、中・長期的な都市政策の欠陥などについて大変意義のある資料収集と分析を行うことができた。21年度繰越は、このフランスの研究者の招聘の費用として充当した。
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