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2012 年度 実績報告書

学校と地域の相互生成:インドネシアにおける美術高校と実践共同体の関係

研究課題

研究課題/領域番号 21730678
研究機関大東文化大学

研究代表者

田尻 敦子  大東文化大学, 文学部, 准教授 (00327991)

研究期間 (年度) 2009-04-01 – 2014-03-31
キーワード状況的学習論 / バリ島 / インドネシア / 美術教育 / 学校の市場化 / 保育の公共性 / フィールドワーク / 職業高校
研究概要

今年度は、学校と地域の相互生成過程について、バリの事例に加えて、日本の事例についても調査と研究を行った。
1、バリ島においては、祝祭が世代間を紡ぐ学習の場として大きな役割を果たしている。バリ島の最大の祝祭である火葬儀礼は、共同体間の葛藤が顕在化すると同時に、葛藤を解消する実践と学びの現場となっている。葛藤を語る過程で、いかにして地域アイデンティティが再活性化するのかを考察をした。
2、バリ島の職業高校においては、学校設立が大幅に自由化され、市場化の波の中で、生徒の急激な増減や、新設と廃校が生じている。この事例を踏まえ、当事者として同じ地続きの地平から問題を捉えるにはどうしたらいいのか?という問いのもとで、日本の福祉の市場化に焦点を当てて考察を行った。バリ島では職業高校の市場化という形で現れた問題が、日本では福祉の分野で顕在化しつつある。特に、教育と福祉のふたつの分野をつなぐ可能性のある保育に焦点を当てて考察をした。バリの学校と、日本の福祉のフィールドの事例を踏まえ、より参加の度合いの高いアクション・リサーチの手法に関する考察を深めた。
3、学校と地域の相互生成過程について、より深く考察するために、日本の八重山地方におけるフィールドワークを行った。八重山地域は、バリ島と比較した時に、文化観光、観光文化、農業や祝祭などの観点からも、多くの共通点がある。職業高校が地域の生業と密接に結びついているという点においても共通項がある。八重山の職業高校と地域の関係性について、バリの職業高校の事例と比較して考察した。
これらの点を踏まえて、いくつかの論文を執筆した。出産をし、育児休業を取得したため、研究計画に多少の変更が生じたが、今までの調査研究を踏まえて論文を執筆し、次なる論文のための調査研究を日本国内ですることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究途中で、出産をし、産休と育児休業を取得した。そのため、インドネシアにおけるフィールドワークを行うことができず、旅費や謝金の支出において、変更が生じた。こうした状況に対応し、効率的に研究を行うために、今までの調査で得たデータを整理したり、分析したりするための物品を主に購入し、考察を行った。出産を逆にチャンスと捉え、より多様な視点からインドネシアの事例を深め、フィールドワークの当事者性に関する考察を深めるために、以下の工夫を行い、研究を継続して行った。
第一に、インドネシアの学校の市場化の事例を、当事者として共通の地平から捉えるために、研究者自身が当事者として関わっている保育の市場化についての考察を行った。保育は福祉と教育という二つの分野をつなぐ可能性のある領域である。さらに、保育や学校と生活保護の関係について、超域的で、学際的な視点から、実践者と研究者と共に考察を行うことができた。
第二に、参与観察の「参与」の度合いが高いアクション・リサーチを行い、フィールドワークの手法についても考察を深めることができた。調査者と被調査者の権力性の問題などを踏まえた上で、インドネシアと日本において、市場化の波を共に受ける者としての立脚点を探す実践を行った。今、目の前にある保育園をみつめながら、筆者が調査研究をしたインドネシアの美術高校を透かし見る視点を持つことで、より豊かな概念を生み出す可能性が開けた。
第三に、日本において、八重山地方の職業高校でのフィールドワークを行い、インドネシアの職業高校と地域の関係を多角的に捉えることができるような工夫を行った。
より多角的な視点から、学際的な研究ができたという点で、研究は、おおむね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

今後の研究の推進の方策としては、学校と地域の相互生成過程について、より概念や理論的考察を深めるために、超域的で学際的な研究を行う予定である。
1、教育と福祉の垣根を越えて学際的研究を行う予定である。インドネシアにおいては、教育分野の市場化が見られる。一方、日本では、教育よりも一歩先に、福祉の分野での市場化が顕在化している。特に、保育や就学援助や生活保護など、教育と福祉の領域にまたがる問題に焦点を当てて、フィールドワークを行い、多角的な視野のもとで、考察を深める予定である。
2、日本の八重山地方や奈良において、学校と地域の相互生成過程について調査を行う予定である。奈良の矢野造形技法研究所の矢野健一郎氏から専門的知識の提供を受けたり、沖縄県石垣市の学校と地域、観光と祝祭の関係などについて、フィールドワークを行う予定である。日程的調整がつけば、オーストラリアやニュージーランドなどの他地域における学校と地域の関係について調査をする予定である。こうした多角的視点から、インドネシアにおける学校と地域の相互生成過程をみつめることで、より概念を精錬し、理論的視座を豊かにすることを行う。
3、可能であれば、インドネシアのバリ島から研究協力者イ・クトゥット・ブディアナ(I ketut Budiana)氏を招へいし、専門的知識の提供を受け、現地で収集して頂いた情報を加味した上で、日本において共同で調査を行い、比較研究を行う予定である。
これらの研究の成果は、学会発表や、論文などにまとめて、執筆をし、成果を還元する予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2013

すべて 雑誌論文 (3件)

  • [雑誌論文] 公的保育の充実による貧困率の低下を目指して~保育を必要とする児童の待機児童化を防ぐには?~2013

    • 著者名/発表者名
      田尻敦子
    • 雑誌名

      『地域における学びと育ち』大東文化大学人文科学研究所

      巻: 1 ページ: pp7-71(モノクロ頁)

  • [雑誌論文] 複数の共同体間の葛藤の解決を語る実践 ~バリ島ウブドゥの火葬儀礼をめぐる村境紛争を芸術家はどのように語るのか?~2013

    • 著者名/発表者名
      田尻敦子
    • 雑誌名

      『地域における学びと育ち』大東文化大学人文科学研究所

      巻: 1 ページ: pp72-93(モノクロ頁)

  • [雑誌論文] 葛藤の解決を模索して絵画を語る実践2013

    • 著者名/発表者名
      田尻敦子 イ・クトゥット・ブディアナ
    • 雑誌名

      『地域における学びと育ち』大東文化大学人文科学研究所

      巻: 1 ページ: pp1-16(カラー頁)

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公開日: 2014-07-24  

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