教育における進路選択について、SSM調査(社会階層と社会移動に関する調査)、JLPS (Japanese Life Course Panel Survey)、JGSS-ライフコース調査といったデータを用いた分析を行い、その結果を公表してきた。分析にあたっては、因果関係のモデル化が近年計量分析の重要なトピックとなっており、推定値のバイアスを補正するための様々な方法(パネルデータ分析や、傾向スコアの使用)が提唱されている。今年は進路選択というトピックをもとに、そうした分析モデルの適用可能性について追究してきた。 また従来あまり問われてこなかった教育達成の世代間移動モデルについて、単純な移動表分析ではなく潜在構造分析を用いて、移動パターンを縮約して提示する方法を提唱した。これにより明らかになったのは、親子間の教育達成の組み合わせ構造が、世代を問わず安定的であることであり、このことは教育と合理的選択理論を結びつけるMMI (Maximally Maintained Inequality)仮説や、相対リスク回避説の実証の上で重要なヒントを与えるものである。また教育から職業への移行にあたっての選択が、その後のキャリアにもたらす影響についても、職業経歴やパネルデータから、マルチレベル分析を応用した潜在成長曲線モデルや、イベントヒストリー分析(競合リスクモデル)によって推定を行った。日本における学校から職業への移行は、新規一括新卒採用がその特徴とされ、このことと終身雇用制や年功序列賃金を結びつけた内部労働市場論によって説明されるのが一般的であったが、これらの分析により、そういった制度や説明枠組みの限界が示されたといえる。
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