研究概要 |
日本で1970年代後半から東海地方のオープン建築を施した公立小中学校を中心として本格的に普及・展開を始める「個別化・個性化教育」運動について、(1)アメリカ経由の先駆的な教育理念・実践を日本に紹介する立場となった理論的指導者と当時の中核的実践者、さらにそのもとで教師としての職能形成を開始した実践者に対する聞き取り調査の継続、(2)個別化・個性化教育がいまだ教育政策上の「異端」であった時期から90年代以降の政策的転回に至るまでの教育思潮・教育言説に関する資料収集,(3)近年に入り新たに個別化・個性化教育の実践を継承・展開している愛知県知多郡の公立I小学校への観察調査・聞き取り調査を集中的に行なった。 とくに(3)を集中的に行なった結果得られた知見を、(2)の作業により90年代以降の「教育の自由化・個性化」政策に対する批判言説を00年代に入ってから構築した教育社会学の代表的な言説群と照らし合わせることで、80年代以降の個性化教育をめぐる政策・実践・言説の歴史的な絡みあいの過程についての一つの見取り図を作成した。成果は「「個別化・個性化教育」再考」と題する学会発表(日本教育社会学会)と「個性化教育の可能性-愛知県東浦町の教育実践の系譜から」と題する論考にまとめた(後者は著書編者に原稿提出済み。宮寺晃夫編『再検討教育機会の平等』岩波書店、2011年8月頃刊行予定)。 (1)のライフヒストリー調査は継続中であるが、60年代末の「大学紛争」との関係性以上に、地域教育実践運動として戦後直後から50年代末まで愛知県知多郡で展開されたコア・カリキュラム運動との連続性が重要な焦点として見出された。教師の自主的な研修活動としての民間の教育実践運動が地域ごとに連綿と継続し、継承され、その人的・地域的つながりのもとで教師の職能形成が保障されてきた経緯と、そこにもたらされたアメリカ経由の実践プログラム開発の手法が有したインパクトについて、関係する教師への聞き取り調査を継続中である。
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