研究概要 |
本研究は,国語科読むことの学習において,類似性に基づいた推論を促す手立てを開発することを目的としている。類推が教室の中で用いられる場合に,学習者の読むという行為にどのような役割を果たすのか,という問いについて,次の3点の知見が得られた。(1)類推は解釈方略であると同時に読書経験を拡張する方略であるということ。(2)類推が成功するには参加者に類推と認知され承認される必要があること。成功した類推は持ち込んだカテゴリーを強調することになるということ。(3)類推を促すためには学習者の選択と貢献とが尊重される共同的な学習環境が必要であるということ。 これを踏まえ,類推を促す手立ての開発を行った。兵庫県丹波市立氷上中学校1年生の教室において,小集団で一文を読む学習を組織した。また,沖縄市立美原小学校,沖縄市立美里中学校における小集団の授業を観察した。類推を促す手立てとして四つのコツを学習者に与えた。(a)言葉の削除による意味の変化(この言葉があるのとないのとでは,意味がどのように変わりますか)。(b)類義語への置き換えによる意味の変化(AとBとでは意味がどのように変わりますか)。(c)動作化・映像化による意味理解(今ここでしてみてごらん,どういう光景か思い浮かべてごらん)。(d)自分の経験との関連づけによる意味づけ(これと似た経験はありますか)。 検証の結果,こうした学習活動が類似性に基づいた推論を促し,さらに次のような効果を生むことがわかった。(1)異議申し立てが類推を促し,対話の中で言葉の意味を吟味することが学習意欲を刺戟するということ。(2)テクストの部分の解釈と全体の解釈とは相互に依存する相補的な関係であり,同時に排他的な関係の読書行為であること。(3)小集団で一文を読む学習活動は類推の<活用>場面になること。
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