ダウン症候群は、知的発達の遅れ(知的障害)を伴う染色体疾患である。ダウン症候鮮においては、リテラシー(読み書き能力)を育てることの有効性が指摘され、その習得が言語機能、中でも発話能力や構音を改善させる可能性や、言語発達支援における効果的なツールとなることが論じられてきた。また、リテラシーを育てることは、言語的な能力の促進だけでなく、読書などの文化的な世界への接点、作文や手紙、日記など自分自身を表現することや、他者とのつながりを持つための手段となることもあり、ダウン症者本人の生活の質を高めることにもつながると考えられる。リテラシーは、読む能力と書く能力の総称であるが、ダウン症候群の書記リテラシー、中でもあるまとまりをもつテキストを産出するような作文表現に関する特徴や発達に関する報告は非常に限定的である。支援方法の立案するためには、評価法を精査した上でダウン症候群の作文表現の発達を明らかにすることが求められる。 平成21年度は、ダウン症児・者の作文表現に関する研究動向についての基礎的研究として、関連文献・資料の収集、研究打ち合わせを中心に行った。また、研究動向を整理した結果を踏まえて、パイロット的な取り組みとして、ケーススタディを行った。その結果、事例が経験した過去の出来事に関する写真を用い、それを時系列に沿って並べ替えること、あらかじめ用意された質問にこたえること、教員とともに統語面に関して推敲を行うことは効果があることが示された。この研究成果は、支援プログラム立案の一助となる大変重要な結果であると考えられた。
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